エリート医師のイジワルな溺甘療法


これから帰る道のりを思うと、うんざりする。

たかが三十分だが、それは健康な場合の通勤時間。

怪我をしている今は、なにもかも普段の倍の労力を必要とするのだから辛い。

それでも、仕事をすると決めたのは私なのだ! 弱音吐かずにがんばる!


「よし、帰るぞ!」


自分に喝を入れて立ち上がり、着替えをして外へ出た。

もうすっかり日が落ちていて、空には星が頼りなげな光を放っている。

夜に外を歩くのは、骨折して以来初めて。

マホガニーは駅に近く、大通りに面しているから車どおりも多い。

街灯もたくさんあるけれど、少し怖く感じる。

こんな状態で、もし襲われたら俊敏に逃げられない。

ひったくりとか、拉致とか。

考えてみれば、ひったくりにとって今の私は、絶好のカモじゃないか。


でもタクシーを呼ぶのは、贅沢だよね……。まあショルダーバッグだし、人気のある道だから大丈夫かな。

それでもちょっと不安を覚えつつ、敷地内の通路を抜けて道に出た。


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