エリート医師のイジワルな溺甘療法
松葉杖で行けば、駅まで約十分。
ほんの数歩進んだその時、シャーッという音が聞こえるのと同時に、すごい勢いで、ビュンッとなにかが脇を掠めていった。
その物体の威圧に驚いて──。
「わっ、とっ」
よろめいたうえに歩道の凸凹に躓いたものだから、体勢を立て直すことに全力を注ぐ。
歩道の端には植え込みを囲った、膝丈くらいのまでのブロックがある。もしもあれに体をぶつけたら大変だ。こんなとこで転びたくない!
松葉杖と健康な足を駆使して必死にあがいた結果、なんとか転ばずに済んだ。
はあぁ~と大きく息を吐き出して、ぐったりと松葉杖に体を預ければ、ふつふつと怒りがわいてくる。
冗談じゃないわ。あんな勢いで歩道を走るなんて、あり得ない!
私に風圧を与えた物体は、若そうな男性が乗った自転車だった。
駅の方に遠ざかっていったあれは、ガードレールと私の松葉杖とのわずかな間を、猛スピードですり抜けて行ったのだ。
まだ、通り抜けたときの威圧が感覚として体に残っている。
踊る心臓を宥めることもできず、怒りも収まらず、その場に立ち尽くす。
もしもぶつかっていたら、私は、どうなっていた?
「瀬川さん!」
不意に背後から名を呼ばれて、反射的にショップの方を振り返り見る。
「え、あれは……」