エリート医師のイジワルな溺甘療法
歩道側にあるショップの入口までは、五段ほどの階段がある。
私の名を呼んだ人は、そこを駆け降りて、速足でこっちに向かってきた。
背が高くてカジュアルな服装は、昼間に見た……。
「……安西先生?」
──どうして、いるの?
ベッドを買うって話したときからもう四時間は経っている。
先生はこんな時間になるまでずっと店内にいたの?
私の近くまで来た先生の表情は、少し険しく見える。自転車の暴走を見ていたのかもしれない。
「大丈夫か? だいぶ顔色が悪いぞ。立ち仕事がキツかったんじゃないか?」
「あ、たしかにフルは大変でしたけど。それよりも、今自転車にひかれそうになったんです。それで驚いちゃって、転びそうになって。顔色が悪いのは、そのせいかな」
「……自転車?」
先生は、怪訝そうにちょっと首を傾げて、私に一歩近づいた。
「はい、実はさっき……」
先生に事の顛末を話すと、眉間にシワができた。
自転車と歩行者の事故は軽視されがちだがバカにできない。最悪死亡事故にもなりえると、先生は言う。
「日本に戻って最初に担当したのが、自転車事故の救急だったんだ。患者は高齢で、運ばれてきたときは瀕死の状態だった。あと一秒でも処置が遅かったら死亡していたな」
いつもの穏やかな声だけど、口調からは静かな怒りが伝わってくる。