エリート医師のイジワルな溺甘療法
自転車は誰でも乗れるけれど、れっきとした車両なのだ。それを理解せずに乗っている人が多くて、藤村整形外科には自転車の事故が原因の怪我で来院する人も多いという。
「とにかく、瀬川さんが無事でよかった。せっかく治ってきたのに、交通事故で病院に戻って来たらシャレにならない」
「もしもそうなっても、先生が担当になって、綺麗に治してくれるでしょ? 敏腕だもの、頼りにしてます」
「そんな、“もしも”の話はするな。瀬川さんが事故ったら、哀しむ人が大勢いるんだぞ!」
真摯な瞳をまっすぐに向けられて、焦ってしまう。すごく怒らせてしまったようだ。
そりゃそうだ。私ったら、命にかかわる話なのに軽口を言うなんて、大反省だ。
「ごめんなさい」
「いや、いい。俺こそ、声を荒げてすまなかった。その、つい……」
先生は手のひらで口を隠して、素直に謝った私から目を反らした。
それがなんだか照れているように見えるのは、気のせいなのかな。
ちょっと動揺しているのかも。先生のこんなところを見られるのは、プライベートだからだよね。
今日会えたこと自体ラッキーなのに。すごーく、貴重だ。
病院で働いてる人も見たことないかも。そう、彼女とか、身近な人しか。それくらい、病院での先生は冷静だったのだ。
彼女っていえば……って、そうだ。そんなことより!
今って、食事に誘う絶好の機会じゃないの!?