エリート医師のイジワルな溺甘療法
「赤ちゃんの靴みたいでかわいいでしょ? ネットショップで見つけて一目惚れしたんです。即ゲットです」
これで、部屋が汚れないように、杖の先をカバーするのだ。
松葉杖で生活するなかで、ちょっとだけテンションがあがる瞬間。無機質な杖が少しかわいらしくなる。
「別に気を使わなくていいんだぞ? 俺は汚れても気にしない」
「いいえ。私が気にするんです。もしも杖先に石が付いてたら、床に傷をつけちゃいますよ」
新築の部屋に松葉杖で来て、最初に傷をつけた女としてずっと記憶に残るのだ。
先生の記憶に残るなら、もっと違うものがいい。
アイツわりといい女だったなー、とか。
「傷か……君は京都の迎賓館を見学したことあるか?」
「……ないです」
「あそこは和風の造りで、廊下は板敷きなんだ。そこを、外国の賓客の女性は、ハイヒールでコツコツ歩く。それでも傷つかないように堅い木を敷いて、更に特殊な加工がされているそうなんだ」
「はあ……それが、どう関係があるんですか?」
「ここも、同じような床って話」
「ええっ、それは、すごいですね!」
「まあ、それなりのところだからな。住人は外国人も多いし。だから土足でもいいんだぞ」
ここは迎賓館と内装が同等の、価格がそれなりのところ、なんだ。