エリート医師のイジワルな溺甘療法
先生の瞳が潤んで見えたのは、私の気のせいじゃなかったの?
しばらく見つめあってしまい、顔がどんどん火照ってくる。
恥ずかしくなってうつむくと、先生の手が伸びてきて、私の腕をそっと握った。
「そうだよ。俺は君のことを考えてる。さあ、そろそろリハビリを始めようか。家に帰るのが遅くなる」
「ああ、リハビリ、ですね……はい。お願いします」
そう、そうだよね。きっと先生は、私自身じゃなく、リハビリのことを考えてるんだ。
医者として、私の脚のことが気になるだけ。
天性の女ごろしのセリフは、真に受けちゃダメ。勝手に深みにはまって抜け出せなくなっても、手は差し伸べられないのだ。
私は患者で、先生のインテリアコーディネーターでしかない。
「ほら。立ってくれ」
先生のサポートを受けて立ち上がると、松葉杖がスッと奪われた。
「今日は、松葉杖なしで歩く練習をする」
「え、いきなりですか??」
「いきなりじゃないぞ、俺が支えるから。目標は、リビングの端から端まで。今日は行けるとこまで行くぞ。いいな?」
先生の言うことに返事ができない。
杖なしで歩くのはすごく怖い。百パーセントの体重を脚にかけるのが、怖い。
ギプスをとったときは生まれたての脚みたいに弱弱しかった。
今は少し丈夫になった気がするけれど、それでもふとしたきっかけで、また折れるんじゃないかと思ってしまう。