【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
「でも、嫌でしょう?」
歩幅の広い彼に並んで歩くため、慌てて早足で後を追いかける。
「あんな悪い噂ばっかり言われてたら」
「別に。ほとんど本当の事だし」
平然とそう応えた西野くんに驚いて立ち止まった。
「え、本当の事なの?」
その時ぽつりと、灰色の空から一粒落ちてきた水滴が足元のアスファルトを黒く濡らした。
「……降ってきたな」
西野くんは空を仰いでつぶやいた。
つられてあたしも空を見上げようと顔を上げた途端、ぐらりと視界が揺れた。
あ、やばい……。
目の前が真っ暗になり平衡感覚が狂って崩れるようにしゃがみ込む。
「どうした?」
突然しゃがみ込んだあたしに西野くんが怪訝そうに声をかけるけど、あたしは返事もできなくてただその場にうずくまる。
貧血だ。
生理なのに思いっきり全力疾走したから……。
しゃがみ込んだあたしの背中にも
目の前のアスファルトの歩道にも
透明の雨がどんどん落ちてくる。
冷たい秋の雨を受けながら、西野くんが面倒くさそうにため息をついた。