【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
「ほら」
冷たい声と一緒に乱暴に渡されたタオル。
あたしはそれを両手で持ったまま、見知らぬマンションの一室で立ちつくしていた。
ここ、どこ……?
揺れるタクシーの車内でいつの間にか眠ってしまったみたいで、西野くんに抱えられるようにしてこの部屋に入ったところで気が付いたあたしは、状況がさっぱりわからないままぼんやりと、部屋の中を見渡した。
どこかのマンションの一室。
黒い革のソファー、生活感のないキッチン、落ち着いた色のカーペット。
物の少ないモノトーンのシンプルな室内。
その中で目を引くのは、壁一面にとりつけられた大きな棚に整然と並ぶ色とりどりのお酒のボトル。
「わぁ、すごいっ!」
すごい、本物のバーみたい。
ほこりひとつなくきちんと並べられたいろんな種類のお酒。
ここって、西野くんの家なのかな……。
「いつまでボーっと突っ立ってんの?」
背後から聞こえた声に驚いて飛び上がると
「別に風邪ひきたいなら濡れたままいればいいけど」
西野くんがタオルを持ったままぼんやりしているあたしに呆れたように言いながら、雨に濡れた制服のシャツを片手で器用に外していた。
はだけたシャツの隙間から突然視界に入った逞しい男の人の身体。
あたしが見ているのも気にせずにシャツのボタンを外すと、濡れたシャツを脱ぎ捨てた。