【惑溺】わたしの、ハジメテノヒト。
「……じゃあ、人の目の前でいきなり貧血で倒れたあんたをそのまま雨の中に置いて行けばよかったか?」
うんざりしたように首を軽く傾け睨まれた。
「いや、そうだよね。いきなり倒れたあたしが悪いですよね」
勝手に後を追いかけてきて目の前で倒れられたら誰だって困るよね。
思いっきり迷惑をかけたよね。
なんか軽く自己嫌悪。
謝りたくて追いかけたのに迷惑かけてどうするんだ。
でもすごく、意外だった。
みゆきちゃん達の語る噂の中の西野くんは心無く女の子をもてあそぶ、冷酷で強引な『ワルイオトコ』だったのに
倒れたあたしをわざわざ家につれてきてくれて温かいコーヒーまでだしてくれるなんて。
「あのね、西野くん。みんなが言ってる噂って、どこまで本当なの?」
本当の彼が知りたくて、ローテーブルの上に置かれたコーヒーの湯気を見ながら西野くんに尋ねてみた。
「どこまでだと思う?」
あたしが質問したのに、逆に聞き返されてしまった。
「どこまでだと思うって言われても……」
そんなの、わからないよ。
あたしが困った顔で黙り込んだ様子を見て、西野くんが面白がるように意地悪に小さく笑う。
「突っ立ってないで座れば?」
いつまでも部屋の隅で立ち尽くしたままのあたしに、西野くんは呆れたように言った。
部屋の真ん中にある黒い革のソファーには深く腰をかけくつろぐ西野くん。
そのソファーの他に座る場所は見当たらないし、隣に座れってことだよね?
あたしはなるべく西野くんから距離をとるようにソファーの隅にちょこんと座った。