あなたの心を❤️で満たして
そう思った矢先、教授の言葉を思い出した。
最初は色々と悩むかもしれないが、そのうちしっくり馴染む筈だと言っていた。


彼と馴染むというのはどんな風に?
触れ合いも少なく、顔も殆ど合わさない日々に馴染めるものなんてあるのだろうか。


私は彼と特別な時間を過ごすことなんて望んでないし、ただ一緒に笑ったり泣いたり、話したりしたいだけ。

平凡でもいいから心を満たす日々が送れればいいし、自分の両親のように別れたりしないで、育ててくれた祖父母のように肩を寄り添って生きていければ……


それをこんな要塞みたいな屋敷で送るのではなく、前に住んでいた家のように、温もりを感じる場所で送りたいと願うだけーー。



そう思うと深い溜息が漏れた。
お金があっても地位が上でも、そんな些細な願いも叶えて貰えないのか…という気がしてきて。


シュン…としたまま大事な通帳を引き出しに直した。
鍵を掛けると思い悩んでいたって仕様がないと考えだし、夕食の支度をしに行こうと部屋を出た。

今夜から黒沢さんが帰ってくるかどうかが分からない。もしも、帰ってこなかったら夜はこの家に一人だけとなる。

< 141 / 283 >

この作品をシェア

pagetop