あなたの心を❤️で満たして

「く…黒沢さん…」


心臓に悪いったらない。
どうして部屋の前にいるんだ。



「やっぱりまだ起きてたんだ……」


そう言うと、彼は驚かせてごめん…と謝った。
廊下の電気が点いていたものだから、私がまだ起きているかもしれない…と思ったらしい。


「ひょっとして怖くて眠れない?」


気にする彼にそうでもないけど…と強がる。
本当はこんな広い家で一人で寝るなんて怖過ぎて、不安でどうしようもないから起きていたのだ。



「お…おかえりなさい…」


誤魔化すようにそう言えば、彼は少しだけ微笑んで。


「ただいま」


短く挨拶を返され、それじゃ…と言って直ぐにドアを閉めるのもどうかと思う。
だけど、他に言葉が続かなくて、それは黒沢さんも同じみたいで……。



「じゃあ…おやすみ」


そう言ってさっさと部屋のドアから離れようとした。
「ちょっと待って」の一言も言い出せないまま見送り、じっとその場に立ち尽くしてしまう。


ちらっと振り返った彼が棒立ちしている私に気づき、きちんと向き直って、どうしたの?と問いかけてくる。

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