あなたの心を❤️で満たして
この家はもう花菱ではない。
花菱を名乗るのは父のみで、私はもう黒沢なんだから。


(あ……)


そう思った瞬間、頭の中に彼の言葉が浮かんだ。
私が苗字を呼ぶ度に、君もだろう…と言い続けていた意味が分かった。


(私はもう…黒沢なんだ…)


改めてそう実感し、ぎゅっと彼の上着の裾を握る。
私は一人じゃない。彼という旦那様がいるーー。


「パパ…」


幼い頃からそうとしか呼んでこなかった。
他に呼び方が浮かばなかった。


「此処に来てももう誰も住んでないよ。この家は売ったの。私ももう、此処には住んでない…」


そう言うと父は更に驚いた顔をした。
眉間に皺が寄り、疑わしい顔つきで問いかけてきた。


「売った金はどうした!?お前が持っているのか!?」


「そんなこと聞いてどうするの?」


それよりも、もっと気にすることが沢山あるんじゃないの?
お祖母ちゃんのお墓とか、どうして亡くなったのか、そういうのは気にならないの?


「留衣……済まないが金を持っているのなら貸して欲しい。父さんの会社が不渡りを出しそうで困ってるんだ」


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