あなたの心を❤️で満たして
無遠慮に言いだした言葉に黙り込む。
父は私の顔色を窺うような目をして、更に付け加えた。


「今月中に金を工面しないと駄目なんだ。どうか俺を助けると思って…」


「何を今更…」


そう呟いたけれど、余りにも神妙そうな父に上手く反論も返せない。
ろくな関わりもしてこなかった父なのに、顔を見るとやはり何処か切なくて。


「頼む!持ってるなら貸してくれっ!」


父は真に迫る様に頭を下げてきた。
その頭頂部を見つめ、ぎゅっと唇を噛み締めた。


幼い頃、私が泣いても振り返らずに家を出て行った父。
その父に頭を下げて願われる日が来るなんて。


面食らいながらも、もしもこの場にも祖父母がいたらどうするだろうと考えた。

あの通帳に入ったお金は、本来私が受け継ぐべきものではない。
花菱の跡取り息子である父が受け継ぎ、手に入れるべきだったお金だ。

それをずっと姿も現さずにいたから自分が引き継いだだけのこと。
祖父母も息子が居ないから、仕様がなくあのお金を孫の私に渡すことにしたんじゃないだろうか。

だったら、どう使ってもいいのではないか。

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