咲くはずだった花
隠れた真実

第三話 隠れた真実

「一条!遅かったじゃないか!」

真緒が学校に着いたのは昼の十二時過ぎ

教室に入った真緒に、担任は声をかける

「お前が遅れるなんて珍しいな?

今日は日南も休んでるみたいだし…」

「…あいつ、今入院してますよ」

真緒の言葉に、教室がざわつく

「に、入院?!」

「…クラス違うから、まだ情報何も入ってなかったんすね

まあ…昨日の帰り道、倒れて。

…まだ、目を覚ましてません」

「…そうか、大変だったな」

真緒の一言で教室は静まり返り…

担任も察したようで、授業に戻った


「真緒くん!!」

昼休み

今度は、結花の方から真緒の元へとやって来た

「ねぇ、奈千が入院ってどういう事?!
あの子、そんなにやばかったの?!」

「…」

「…っ、真緒くん!!」

「…あいつなら、大丈夫だ」

結花の不安をかき消すように、必死に声を絞り出す真緒

「大丈夫、大丈夫…だから」

「…」

恐らく、真緒は気付いていない

その“大丈夫”は…


自分を落ち着かせるように、

まるで言い聞かせるように…


いつもの真緒らしくない、一面だった

「…それより、丁度よかった
俺、楸に用があったから。これから教室に行こうと思って」

「…私?」

二人はそのまま、視聴覚室へと移動した


「…それで?話って、なに?」

「…奈千の事で、聞きたいことがあって」

奈千が倒れたあの日のことを

なるべく事細かに、鮮明に

結花も記憶を呼び起こしながら、順を追って説明をした

「…なるほどな」

驚くほど、割と簡単な話だった

「体調崩した奈千を楸と保健室に向かう間、階段を二、三段踏み外して壁に頭をぶつけてしまった…そういう事か?」

「うん。

ほんと、あたしもびっくりして…確かにあの子おっちょこちょいだけど、
『真緒ちゃんに言われてるから、足元気を付けなきゃね』って、よく言ってたし…」

「その後、奈千に何か変わったところは無かったか?」

「そうねぇ…あ!

『頭が割れるみたいに痛い』って、少し歩いてしゃがみこんだわ

私がおぶって行こうとしたんだけど…自分で歩けるからって、肩だけ貸して行ったの」

奈千…

「…そうか、ありがとう」

真緒はそれだけ言うと、視聴覚室を出ようとする

「…っ、真緒くん!」

「ん?」

結花が真緒を呼び止める

「…奈千、お見舞いに行ける状態になったら、教えてね」

「…了解」

ふっと笑った真緒は廊下に出て、スマホを取り出した


「…あ、やばい。忘れてた!」

あの後、英治は仕事に戻って楓としばらく様子見がてら、奈千の話をしていた千尋

英治に頼まれたUSBを楓に渡すのをすっかり忘れていた

「もう着替えちゃったし…ま、いっか」

更衣室を出て、元来た道を戻る

すると、後ろから聞き慣れた声がした

「あれ、千尋?!」

「瑠衣!」

ナース服姿で現れたのは、皆川瑠衣(みなかわ るい)。
千尋と同じ高校出身で、とても仲の良い同僚でもある

「どうしたの?千尋、今日オフじゃなかった?」

「ちょっと訳ありでさ。
あ、そうだ!これから楓くんの所に行くんだけど、瑠衣もどう?」

「か、楓くん?!」

瑠衣が一気に頬を赤く染める

「も〜、まだそんな赤くなる?」

千尋がくすくすと笑う

「だ、だって…」

瑠衣と楓は恋仲の関係

いまだに慣れないのだろう

初々しい瑠衣が、とても可愛らしかった

〜♪

「あ、ちょっとごめんね」

千尋は鞄からスマホを取り出す

「あ、もしもし?」

『千尋姉?』

「真緒くん!」

電話の相手は真緒だった

『英治兄ちゃんに電話しても繋がらなくて…楓さんの番号、知らないし
だから千尋姉に電話したんだ』

「何かあったの?」

落ち着きのない真緒をなだめるように千尋が言う

『…楓さん、今日の夕方忙しい?
ちょっと用事があって』

「瑠衣、楓くん今日の夕方何か仕事入ってたりする?」

隣できょとんとする瑠衣に言う千尋

「今日は特に何も無いって言ってたし、大丈夫だと思う!」

「…もしもし真緒くん?
楓くん、大丈夫みたい」

『ほんと?!…じゃあ、夕方またそっちに向かうよ』

「気をつけてね」

千尋が電話を切ると、瑠衣が首を傾げる

「真緒くん、って…誰?」

「英治の従兄弟なの。
高校生だけど、すごく可愛いの」

千尋が嬉しそうに話す

「瑠衣はまだ仕事が残ってるみたいね」

千尋が苦笑いしながら瑠衣の手元にある大量の資料に目を落とす

「そうなの〜…何で今日に限ってこんなに仕事増えるかなぁ…

楓くんに、よろしく伝えておいて?」

「了解!」

とぼとぼと去っていく瑠衣を見送り、エレベーターへと乗った

…チン

楓のいる階に止まる前、別の階でエレベーターは止まる

「…あ」

「…あ」

同時に声が出る二人

「…お前、まだいたのかよ」

英治がため息をつき乗り込む

「楓くんに英治から頼まれてたUSB、渡すの忘れちゃってて…」

「…頼むぜ」

呆れた顔で天井を仰ぐ英治

「…真緒くん、夕方頃にまた来るって」

「…そうか」

「…ふふっ」

「?どうした、急に笑い出して…」

「いや?…就職したばかりの時も、こんな感じだったなぁって」

最初の頃、エレベーターで鉢合わせた時は喧嘩腰で。

中学時代、しょっちゅう喧嘩する名物コンビだった千尋と英治

それが今、どうだろう

恋仲になって、柔らかい雰囲気に包まれている

「何だかおかしくなっちゃって」

「…同感、だな」


それから程なくして、楓のいる階に着いた


「…英治が?」

先に降りた英治はおらず、楓の元へは千尋だけが向かった

「私もよく分からないんだけど…楓くんに渡してほしいってさ」

「そうか、ありがとう」

USBを受け取った楓はパソコンからこちらに向き直り、大きく背伸びをする

「…瑠衣は?」

「今日は忙しいみたい。
来る途中で会ったから誘ってみたんだけど…今日は抜けられないっぽくて」

「そうか…」

「…楓くん、瑠衣が居るとほんと毒気抜かれるよね」

千尋が楽しそうに笑う

「…神崎ちゃん、性格悪くなったね」

赤くなった耳を隠すように髪をいじる楓

瑠衣と楓は付き合ってしばらく経つが…

変わらない初々しさが、周りを和ませた


しばらくお互いの近況などを話し、千尋が帰ろうとした

…その時


ーーーーバン!!!!


突然開かれたドアの前に立っていたのは…

「ま、真緒くん?!」

千尋が驚いて声をあげた先には、息を切らした真緒がいた

「…来るのは夕方じゃなかったっけ?」

楓がスッと視線を向ける

「…もう夕方みたいなもんでしょ
それに今テスト前なんで、早く帰れるんすよ」

息を整えながらニッと笑う真緒

「やれやれ…英治といい君といい、本当に忙しない奴らだ」

楓がゆっくりと席を立ち、真緒を手招きする

「…そういう事だ、神崎ちゃん
悪いけど、後はよろしく頼んだよ」

「わ、わかった!」

そう言って部屋を出た千尋

「…さぁ、ゆっくり話でもしようか」

少し薄暗いその部屋で

たくさんのモニターが楓の後ろで揺らめいている

「…お願いします」

緊張した面持ちで、真緒は楓と話を始めた
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