孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
 まただ。

 この人はまた、私を錯覚に陥れようとしてくる。


「俺のために毎日を過ごせばいい。
 俺がお前の充実感を満たしてやるから」


 アルコールが急速に全身の血流を速める。


「だから、男にへつらうようなことはするな」


 高い心臓の音が耳の奥で鳴り響く。

 私を独り占めしたいように聞こえるのは、完全なるうぬぼれに違いないのに。


「踊りをやめろと言ってるわけじゃない。
 あれはずっと続けていくべき日本の伝統だ。
 俺が言いたいのは、他人の浅はかな欲を埋めるためにお前の価値を下げるなということだ」


 ふ、と軽く息を吐いて、ソファの背もたれに片肘をつくスマートな紳士。

 長い指でこめかみを抱えた瞳が、私の心をじっくりと侵食してくる。


「秘書課は実績が出にくいからな。
 どうやって自分の価値を見いだせばいいのか、わからなくなるのも当然だ。
 結婚までの腰掛けと思ってやってるやつもいるだろうし、競い甲斐もない」


 少し心を晒しただけで、私を捕らえる瞳は隅々までを無遠慮に覗き込んでくる。

 しかもそれが、的を射ているから……心臓が震えた。
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