孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
 ――『好きだからな』


 そう言ったのは、“海のこと”だとわかっているのに、なにを勘違いしたのか胸がわずかに脈を乱す。


「海とかお寿司とか好まれる社長は、もしかしたら前世は、お魚だったのかもしれませんね」


 動揺をごまかそうと開いた口からは、咄嗟の思いつきが飛び出た。

 言ってしまったあとで、激しい羞恥が襲ってくる。

 なんてくだらないことを言っているんだと、せっかくの感動を白けさせてしまったかもしれない。

 しかも、社長を魚だなんて失礼なことを口走る自分のまぬけさを嘆いていると、ふはっと吹き出した社長は足を止めて振り返ってきた。


「お前……っ」


 口元に拳を添えてくっくと揺れる肩を堪えきれない様子の社長は、切れ長の目をこれでもかと細めて顔全部をくしゃりを崩す。


「前世は魚か、そりゃあいい。あながち間違っていないかもしれないな」
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