孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
*


 すっかり日は暮れ、タクシーで実家が経営する旅館へと社長を案内した。

 私の緊張をよそに数分とかからず着いたのは、周りを木々に囲まれライトアップされた風情のある建物の前。

 高級感を漂わせる老舗旅館の正面玄関では、和服を着た従業員が出迎えてくれた。

 外に出ると、潮風に揺られる木々のざわめきに混じって、波の音が聞こえてくる。

 懐かしい潮の香りと音に、胸が切なくぐっと締めつけられた。

 タクシーのトランクから私の荷物も一緒に取り出し、持ってくれる社長は、「自分の分は持ちます」と恐縮する私に構わず足を進める。


「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」


 綺麗に髪を結い上げた着物姿の若女将が、正面玄関前で私たちに頭を下げた。


「おかえりなさい、お姉ちゃん」


 手のひらを重ねたお辞儀から直ったのは、私によく似たふたつ下の妹の詩織(しおり)だ。


「ただいま」


 なんの不服もない、心から私の帰省を喜んでいる笑顔に感じる引け目を隠して、わずかに口角を上げてみせた。
< 124 / 337 >

この作品をシェア

pagetop