孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
「そこをなんとかお願いできないかな……」


 慈悲でも乞うように、社長にはできるだけおおっぴらにしないように小声でお願いする。


「佐織」


 それを遮ったのは、少し尖った社長の声だ。


「部屋はそのままでも構わない」


 吐き出すため息に呆れを感じさせる社長は、私からそばにいる人へと視線を移す。


「こちらの見苦しい私情を挟んでしまい申し訳ない。
 この素敵な老舗旅館の特別室に泊まれるなんて、個人的にはとても幸せなことですから、ありがたく宿泊させていただきます」


 口角を上げただけの笑みで、支配人へそう告げる社長に、申し訳なさがあふれてくる。

 宿帳にサインをする社長の背中から、逸らす視線はしゅんとしょぼくれた。

 私を認めていると言ってくれたからって、張り切り過ぎたかもしれない。

 こんなふうに空回りしていては、浅田室長のようにすぐに切られてしまいそうだ。

 せっかく、今の仕事に自分の存在価値を付けられそうだったのに。
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