孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
 帰りづらかった。

 ……本当は、帰るつもりでいたのに。

 留学したのだって、英語を身につけて、この旅館で活かそうと思ったからだった。

 昔から英語は得意なほうで、聞き取った英語の意味を理解できるようになるのが、楽しくてしょうがなかった。

 外国人観光客の宿泊があったとき、たまたま居合わせた私が、まだ片言だった英語で意思疎通をはかり、困っていたみんなの間を取り持つことができたのが、留学を決めたきっかけ。

 そういう志を持ち海の向こうで頑張っている最中の、妹の結婚だったんだ。

 相手が、幼馴染みの大和だと聞いたときはそれはそれは驚いた。

 けれど、それよりも、まだ二十歳の妹が家業を継ぐという決断をしたことが、一番の衝撃だった。

 私は大学を卒業したら、婿養子を取り跡を継ぐのだと当然のように思っていたから。


 帰る場所がなくなった気がした。

 もちろん、妹が家業を継いだからって、私も家のために帰郷して手伝ってもよかった。

 だけど、偉い偉いと周りから褒め称えられる妹を前にして、姉としての立場は形無しだったから。
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