冷徹社長の容赦ないご愛執
 社長が私を好きだなんて信じられなくて、疑問ばかりが湧いてくる私に与えられた答えは、ただひたすらに自分を羞恥に追い込む言葉だらけだ。

 そんなふうに褒められることに慣れていなくて、社長の言葉のすべてを素直に受け入れることができない。


「他には……そうだな。昔話でもしようか」


 私を閉じ込めていた腕をほどき、だけど決して距離を取ることなく私の腰を引き寄せる。

 ぴったりと密着させられた体が、社長のたくましい腕の中にすっぽりと納まった。


「幼い頃からなにかと負けず嫌いな性格だったな。とくに兄と比べられることには、過敏になっていた」


 まるで子守唄のように聞かされる社長の昔話。

 社長には四つ上にお兄さんがいる。

 お父様はあちらの国の大使館で外交官をしていて、お兄さんはそれに続くようにエリート街道を突き進んでいるのだそう。

 社長からすれば、それが型にはまった生き方のように見えたらしい。

 決してそれを否定するつもりはないけれど、自分はそうはなりたくないと思ったそうだ。
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