孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
 でも……、各部署の部長や社員は、ただの働き蟻ではない。

 人と人との関わり合いをもって、組織は成り立っているはずだ。

 社長はこの会社を建て直すための指揮を取る頭だけれど、どんな人がどんな風に動いて、どんな責任を負って働いているのか、そういう部分も総指揮者として知っていてほしい。

 それは、私だけが感じている綺麗事ではないと思う。


『ああ、すまない』


 悶々と口に出せない小さな反発の感情に頭を重くしていると、尖った刃物のようだった声音が、急に丸みを帯びた。

 それまで張り巡らされていた鉄壁の威圧感が、ふっと質量を軽くする。

 ぐっと圧しつけられるような空気が不意に解かれて、抱えていたタブレットに無意識に力を込めていたのだと気づいた。


『秘書の君に、それを追及しても仕方ないな』


 鋭さを孕んでいた瞳はゆっくりと瞬き、そこから戻ってきた視線が、穏やかに私の心臓に絡みついてきた。
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