孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
『その予定を組んだのは浅田か?』

『は、はい、そうです』

『わかった』


 意外なやわらかさを見せられて、紙の山から束をひとつ取り上げる長い指の美しい所作に、視線が不用意について行く。

 手元に持たれたクリップ留めのそれを見下ろす長いまつげ。

 その綺麗さが、私の鼓動のテンポをひとつだけ乱した。


 ――びっくりした……。


 社員を人と思っていない冷血漢なのかと、以前からの先入観でイメージを作り上げていたのは、どうやら私のほうだったらしい。

 秘書という立場の私が、上司からの指示の意図までも、すべてを把握しているわけではないことを、橘社長は理解してくれていた。

 責めるように追及してきたのは、本当に社のことをなによりも先に考えていたからだ。

 仕事に無駄なことは一切排除する絶対実力主義の君主。

 だけど、無駄と言い放った山のひとつに手を付け、彼は真剣な眼差しで目を走らせている。

 生み出されてしまった無駄を、無駄なものとしては、終わらせないでくれていた。


 たしかに、この紙の山の情報は、データで送ればほんの数秒のこと。

 印刷するには、数分の時間とトナー代、それを作業する人の手が必要となる。

 橘社長が言ったことは、何一つ間違ってはいない。

 
 本当に会社のことを考えるのなら、こうした小さなひとつひとつに気を遣って当然のことなのだ。

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