孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
 じっと私を見据えてくる瞳に、鼓動が早まる。

 そこにゆらりとしたきらめきを見つけると、社長は静かに口を開いた。


「愛、始めてみるか? ここから」

「え……」


 不意に社長は私に向き直り、背中を屈めてくる。

 こっちへ来るときと同じ空気が再び私たちの周りを取り囲み、その雰囲気にのみ込まれる。

 角度をつけて近づいてくる顔から、逃げるという選択肢はなく、薄く閉じられていく瞼につられて、私もぎゅっと目をつむってしまった。

 近くに迫る気配に、心臓が脈を大きくする。


 ――『避けないのかよ』


 そう言われた数時間前の社長の声が頭を過る。

 どうして私はあのときも、今も、避けないのか、自分の心に首をかしげていると、


「……んな、すっぱいもん食ったような顔にできるかよ」


 ふっと鼻で笑った社長の遠ざかる気配に、恐る恐る目を開けた。

 背筋を正し、コートのポケットに両手を突っ込んだ社長を見上げる。


「すみません……」


 謝る私の声がしょぼくれていたことに、自分でも驚いた。
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