冷徹社長の容赦ないご愛執
 瞼を閉じると余計に社長のことばかりが頭を駆け巡る。

 今日社長室でもらった熱いキスの感覚が、自分がまとう甘いバラの香りにあおられて、唇に火照りをもたらした。

 抵抗なんて、最初から私の選択肢になかった。

 むしろ、そんなつもりはなかったのに、気づかないうちに“おねだり”までしてしまうなんて……

 思い出すだけで、せっかくリラックスした心臓が早鐘を打ち出す。

 こんなに社長のことばかりに思考を独占され、簡単にときめく私は、どんな位置に彼を見ているんだろう。


 ――『他の誰かを好きになる前に、俺に惚れて』


 私を見つめるあの切れ長の瞳を思い出しながら、怖々と自分の心に手を伸ばす。

 もう長い間そんな感情に触れることがなかったから、それが本物なのかがわからない。

 私は、恋をしているのかしら……

 頭の中だけで自分の感情を言葉にしてみると、瞬く間に体中が熱く火照りだす。

 小学生の頃、少しだけ気になる男の子がいたような記憶はある。

 あまりにも曖昧で、今私の心に広がりだしている気持ちが“恋”なのかがわからない。
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