冷徹社長の容赦ないご愛執
『……――ございます、菊前寿司です』

「あ、叔父さん? 私、佐織です」

『おお、佐織かー。お疲れさん』


 両手で支える受話器の向こうで、景気の好い声を出すのは、都内で寿司店を経営している私の叔父だ。


「今夜、予約したいんだけど大丈夫?」

『宴会か? 二階の座敷取っとくか?』

「あ、ううん。そうじゃないの」


 叔父の店は、都内でもわりといい雰囲気とお値段のするところだ。

 和風の造りの一階はカウンター席とお座敷席があり、二階には二十畳ほどの宴会場もある。

 個室もあるけれど、社長ひとりならカウンター席でも用意してもらえれば、それなりのおもてなしはしてもらえるだろう。


「お寿司食べたいってかたがひとり……」

「予約はふたりにしてくれ」


 お店の雰囲気を思い出して、そこにお通しする社長のもてなし方を想像していると、不意にそばから声が挟まれる。

 叔父さんに向けている私の声を遮る言葉に、とても新鮮味を感じてはたと目を向けた。
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