冷徹社長の容赦ないご愛執
 私の慌てる様子?

 室長の誤訳?


 そのどちらとも、日本語が理解できなければきっとわかり得ない状況なのに、だ。


 唖然とする私のほうへ、社長は悠然とした足取りで戻ってくる。

 私の隣に並んだ長身は、必然的に浅田室長の目の前に立ちはだかる格好になった。

 胸元で腕を組んだ社長。

 自分よりも低い室長をあえて上から見下ろすように、わずかに顎を上げてみせた。


「You demote it.」


 三つの単語が、わかりやすくはっきりと発音される。

 その言葉の意味に、私は長身を隣に見上げて大きく目を見開いた。


 ……は……?


 口元が笑んでいるから、とても穏やかに見える。

 けれど、決して笑顔とは言い難い目元は、しなやかに細められているけれど、その瞳の奥におぞましいほどの怒りの炎が見えた気がした。
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