孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
 社長は、間違いなく怒っていた。

 浅田室長に、嫌みを言われたからだ。

 私はそれを通訳していないのに、上司に対する明らかな侮辱の言葉を彼はきちんと理解した上で、こう言った。


 ――『お前は左遷だ』


 一歩間違えれば、パワハラにもなりかねない発言。

 だけど、浅田室長が発した暴言は、社長にそう言わせても致し方ないものだっただろう。

 もう冷や汗どころか、一瞬にして凍った周りの空気が体に張りついたようだ。

 浅田室長は、社長が一体なにを言ったのかわからない様子で、私にちらちらと目線を寄越してくる。


『訳さなくていい。明日には処分を考える』

「え……」


 だいぶ語気を落ち着かせて、社長は怒りを鎮めた瞳を私に向けた。

 凍った空気を溶かしてくれるような、穏やかな眼差しに肩の力が抜け、ささやかな鼓動が弾けた。
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