冷徹社長の容赦ないご愛執
 自分の異常な音に気づくと、途端に耳がふわりと火照る。

 恐る恐る隣を盗み見たのは、私の中で燻る女の本能が、ハイスペックな遺伝子を求めているからだろうか。


 生まれてから今までに、そういうふうに感じたことがあったかな……

 子供の頃、学生の頃、留学してから、大人になった今までも――……。

 思い返しても、それに値する感情をなぞれるものは、ある気がしない。


 ときおり闇に浮かぶ滑らかな輪郭は、向こう側で頬杖をつく。

 流れる車窓の景色を眺め、憂いて綺麗な姿に……息が苦しい。

 
 ……なんなんだろ、これ。


 気持ちがふわふわと浮遊している気がするのは、ハイヤーの乗り心地が超絶にいいからかもしれない。

 おもむろにこちらを向いてきた瞳にも、ささやかな鼓動が視線を外させなかった。
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