孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
 思わず目を見開いた。

 私を取り込む黒の瞳の深さが、心を支配するようだった。

 それが当然だという橘社長の、“女尊男卑”の精神が、私の価値観を塗り替えてしまいそう。

 ついでに、もてはやされているらしい私の心は、かっと熱を持ち、なにか別の感情を勘違いしてしまいそうだった。


「If you understand, get on soon.」
<わかったら、さっさと乗る>


 「Go.」と急かす社長に、もうノーとは言えずに、すごすごと革張りのシートに腰を沈める。

 ドアを閉めたのは社長で、車の右手に回ってきた彼は何食わぬ顔で私の隣に乗り込んだ。


 高級な革張りの擦れていない品のある匂いに包まれているせいか、狭い空間で社長の爽やかで甘い香りが、私の女心に手を伸ばしてきた。


「出してくれ」

「かしこまりました」


 社長の声で、エンジン音のしない高級車は走り始める。

 ふたりの間にはあとひとり分のスペースがあるものの、エレベーターの箱よりも密度のある空気に、一度熱を持った心臓がおかしな音を刻み始めた。
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