冷徹社長の容赦ないご愛執
「ここか、叔父さんの店は」


 お寿司大好きな社長が心なしか浮かれたように呟くと、舗道をすれ違うふたり組みの女性が、お互いの間を抜くように肩越しに振り返ったのに気づいた。


「はい、そうです……」


 昼間の受付の女の子達と同じ表情をして通りすがった女性達が見ていったのは、この眉目秀麗な社長。

 そんな誰の目をも惹きつける男性のそばに立つ私は、見劣りしないよう鼻高く背筋を伸ばしてしまった。


「……って、え!? どうして……っ」

「何が」


 変な方向に勘違いをしている頭をはっと覚まさせたのは、後ろで閉められた車のドアの音のおかげだった。


「どうしてここが……っ、私、道案内してな……」


 一体どこまで華麗なエスコートをするのかと、若干怖さを感じてきた私に、社長はうんざりというようにため息を吐いた。


「そんなこといちいち気にするな、いい加減」


 たしかに、この店までの地図はメールでお送りした。

 でも、社長が道案内している様子なんて、全然なかったけど……


「ほら」


 唖然とする私を、社長はまた見えない力で背中を押した。
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