冷徹社長の容赦ないご愛執
 見せしめ、というと言い方は悪いけれど、前社長が奮起して営業に出るなら、他の社員を焚きつけるには十分だ。

 社長は人事部長から言われるまでもなく、浅田前社長が社長になるまでの功績を加味した上で、営業に回すことにしたんじゃないだろうか。

 『若造』だなんて横柄に言われたくらいで、左遷というあまりに横暴な処遇を、この社長がなにも考えずにするわけがなかったんだ。

 エレベーターに乗っているだけでも、姿勢よくたたずむ大きな背中に尊敬を抱き、胸を熱くさせられていると、到着した階で待っていた秘書室の同僚と鉢合わせた。

 休憩にでも行くところだったのだろう。

 「お疲れ様です」と上司に頭を下げる同僚に「Hi.」と軽く片手を挙げる社長。

 先に私を箱から降ろしてくれるこの会社の最上の長は、当然のように同僚の彼女が乗り込むまで扉を押さえて待った。
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