冷徹社長の容赦ないご愛執
『ああ、そのふたりに言葉が通じないのはわかってた。さっき海外との取引の話をしていて、通訳が欲しいとか言ってたからな』


 通じないとわかっている英語で飄々と宣う社長は、またイカの刺身を口に運び、うん、と満足そうに目を細める。


『だとしても……』

『助けてやったろ。感謝しろ』


 手酌で熱燗を注ぐ社長の、上から目線の言葉に、それ以上の反論は許されない。


 そうなのだ……社長は私を助けてくれた。

 板前さんよりも先に。

 私が助けを呼ぶ心の声よりも、早く。


 意味は伝わらないからと無遠慮な言葉をずけずけと吐いた社長だけど、それが私を助けるためで、私に絶大なる安堵をくれたことはたしかだ。

 胸の奥から湧いてくる熱に、心臓が窮屈さを感じる。

 頬にその熱さをくべながら『ありがとうございました』と小さく呟くと、箸を置いた社長は、綻んでいた表情をすっと鎮めた。
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