孤高なCEOの秘密を知ったら、偽装婚約で囲われ独占愛に抗えない
『これがあれだな、“馬子にも衣装”ってやつか』


 くっ、とおかし気に口元だけで笑って、お猪口をあおる社長は、私の火照りには気づかなかったようだ。


『失礼ですよ、橘社長』

『ああ、悪い悪い』


 悪いと言いながら、絶対そんなふうには思っていないとわかる社長の笑み。

 お酒が入ると、笑い上戸にでもなってしまうんだろうか。

 いつもの絶対実力主義の威圧的な雰囲気を一切消した社長に、胸の奥でなにかが芽吹く音がした。


『さっきの言葉もですよ。英語、通じるかただったらどうするつもりだったんですか……』


 顔の火照りを誤魔化すように、さっきの危うい言動を注意する。

 英語が話せない会長親子にでも、せめて聞こえないようにボリュームを絞る。

 落ち着かない鼓動を諫めながら、いつもの威圧感がないのをいいことに冗談めかして軽く目を薄めてみせた。
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