上司な彼とルームシェア
過去と出世とシェアハウス……俊哉side
うちの実家をシェアハウス仕様にしてからもう2年。
俺に、異動の話が持ち上がった。

やっと本部に上がれる道筋が見えてきた。


──5年前、将来を共にと思っていた彼女の妊娠が発覚した。脳内で微笑ましい家族を描こうとした瞬間。その言葉に打ち砕かれた。

『ごめん、俊哉の子じゃないの…』

何かの間違いだと思いたかった。でも、やっぱ計算合わねぇよな…それにちゃんと着けてしたし…と冷静に考える自分がいた。

「そいつと結婚するのか?」
『ごめん、そうなると思う』
「…………そうか」

将来を期待はしていた。でも、頭の半分ではこの景色を予想出来てた。だから思ったよりも冷静に会話できた。
この半年前、珍しく外に出る仕事があった。営業車で信号待ちをしている時、見知った後ろ姿が目の前の横断歩道を歩いている。隣の人物に微笑みかけ、その二人の間では指を絡め、固く繋がれた手があった。

それで最近の彼女の態度に合点がいった。



北支部長に昇進し、張り切っていた。毎日忙しく、疲れたが、何より今まで一番仕事が楽しかった。
日常の比重は明らかに仕事の方が大きかった。

俺が原因を作ってしまったんだ。
彼女の責める権利などない────


───それからは取り憑かれたように仕事した。支部内で鬼と揶揄され始めたのもその頃だった。でも、帰ってくる度、暗くだだっ広いこの家がとても寂しかった。


小さなマンションにでも引っ越すかなと、高校から付き合いで実家の不動産会社で働く酒井健次を飲みに誘った。

「掃除もままならねぇし、引っ越そうと思ってんだけど。近所にどっか空いてねぇか?」

「今空いてんのは女向けの部屋が殆どだなぁ。んで、売りに出すのか?」

「まぁ、親父たちは向こうの畑気に入っててこっちに戻ってくる気も無いだろうから、ゆくゆくはそうなるだろうな。」

「しかし、引っ越す暇なんてあるのかよ。支部長んなって忙しいんだろ?」

「そこは、まぁ……、なんとかなるだろ」

「じゃあ、間貸しすればいいんじゃね?越さなくていいし」

「マガシ?」

「各部屋にドアだけしっかり付けさえすれば、立派なシェアハウスになるぞ、あの家。掃除は共有スペースは当番制にしちまえば楽なもんだろ。しかも家賃収入もある。」

「それいいな……」


─────それから、全部屋は埋まらなかったが、続けざまにあの4人が入居してきた──────

もう、帰っても家には電気がついてる。
それだけで胸が少し暖かくなった。
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