上司な彼とルームシェア
来週から南支部へ勤務だ。ここからは徒歩圏内。
今週いっぱいは有給消化の為、家で寝溜めでもする予定だ。三日後に初出勤を控え、自室のベッドで転がっていたとき─コンコン─とノックと同時に
「トシさん、ちょっといいですか?」
と住人の真波ちゃんの声が聞こえた。
「どした?」とドアから顔を覗かせると、一晩だけ友人を自分の部屋に泊めてもいいかと尋ねてきた。
話によると、友人が空き巣被害に遭い今晩だけでもと頼ってきたらしい。
「そりゃ、災難だったな。全然構わないけど、あの部屋に二人じゃ狭いだろ。俺の隣の部屋空いてるし、客用の布団一式もあるから泊めたげな」
と告げると
「ありがとうございます」
と手で聞こえないように押さえていたスマホを耳許へ戻しながら真波がリビングの方へ向かっていった。
「さぁ、布団出しといてやるか…」
と暫くぶりに隣の部屋に足を踏み入れたのだった。
──それから1時間程たったころ「ピンポン、ピンポン」
とインターホンがなった。
「はい。」
『あれ?あ、あの畑江真波さんのお宅でしょうか?』
モニターに映る何度も瞬きをするどアップの顔が可笑しくて笑いが漏れそうになった。少しこらえて
「あー、はいはい…真波ちゃーん」
と風呂上がりで、台所でサイダーを飲んでいた真波を呼んだ。
モニターに視線を戻し、未だにどアップの顔を見て「ふっ」と笑いを漏らし、再び通話ボタンを押し
「今開けるからね」
と言い、玄関の鍵を開けにいった真波のあとを追った。