上司な彼とルームシェア
脱プラトニックへ──俊哉side
由紀恵のあんな姿を見て、平常心では居られなかった。

取り敢えず、気持ちを落ち着かせようと冷蔵庫から缶ビールを取り出す。

一気に半分ほど流し込み、静かさに耐えられずテレビをつけた。スポーツニュースが画面に映し出され、丁度プロ野球も後半戦とあって賑やかな番組に、少し落ち着きを取り戻せた。


すぐにでも由紀恵を抱いてしまいたかったが、もう何年もそっちはご無沙汰だし、恥ずかしがる由紀恵に性急にそういうのを求めるのも何だか躊躇われた。

でも、今日はチャンスが巡ってきた。何気なくそういう展開に持っていこうと思った矢先にさっきの出来事。

(今日も無理かな……)

ともう一度缶ビールに口を着けたところで、由紀恵が部屋を出てきた。

気持ちを悟られまいと、視線はスポーツニュースに向けたまま返事をした。

おやすみと洗面所へ向かう由紀恵の後ろ姿……、いや、髪をまとめ上げ、後れ毛が張り付くうなじに、俊哉は足元からゾクゾクっと走るものを感じ、誤魔化すように残りのビールを煽ってテレビを消した。

洗面所で歯磨きをしていると、パタンとドアの閉まる音が聞こえた。

(今日はやっぱり止めとくか…)

と口を濯ぎ、ふと明日の出発時間の確認だけしておこうと由紀恵のドアノブを握ろうとした時、ふいにドアが開いた。

「「あっ」」と由紀恵と顔を見合わせた。

その少し潤んだ瞳、少し開いた唇で、自分の針が振り切ったのが分かった。


その瞬間、由紀恵の後頭部をガシッと押さえ、唇を貪った。

そのまま部屋の奥へと追い詰め、ベッドへと雪崩れ込んだ。服の裾から手を差し込み、柔らかなそれに指を食い込ませたその時、由紀恵が涙を流しているのに気がついた。

すっと手を引き抜き、「ごめん…」と体を離した。
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