上司な彼とルームシェア
──コンコン
ノックと共に、「由紀恵さん、無事?」と幾太の声が聞こえた。
回復したらしい俊哉がお腹を押さえ、ドアを開けた。
「俺が無事じゃねぇ。殺られるとこだった」
まだ、顔を歪めたままの俊哉に
「一体どんな修羅場?あ、由紀恵さん。たっくんが荷物持ってきてくれたよ」
と幾太がボストンバッグを掲げた。
「たっくん……」と二人が呆気に取られている間に、幾太はボストンバッグを俊哉に手渡し、リビングへと戻っていった。
「由紀恵…」と背を向けたまま俊哉がボストンバッグに手をかけていた。
「はい」
なんとなく、改まって返事をする。
振り返った俊哉が微笑み、言った。
「おかえり」
思わず由紀恵も微笑み──『ただいま』と言ってしまったのだった。