常務の愛娘の「田中さん」を探せ!

「……確認しますが、お客様からの入金はございませんでしたね?」

彼女の声は、トーンは高いのに不思議と落ち着きの感じられるものだった。

「はい、ありませんでした」

山田が彼女に答える。

「では、ここで事務処理を始めます。必要な書類や伝票などはあとでまとめて記入してもらいますので……上條課長、端末をお借りします」

彼女はそう言って案内された大地のデスクの椅子に座り、端末のキーボードを軽やかに叩いた。

大地の管理者用の端末に、管理者IDのパスワードを入力する画面が現れる。彼女は自分専用に与えられたパスワードを入力した。
管理者IDを取得できるのは、主任以上の役職だ。

通常、主任になれるのは三十歳前後なのだが、彼女はとてもそんな年齢には見えない。新入社員といってもおかしくないほどの童顔である。

「きみは、入社何年目?」

思わず大地は訊いた。

「わたしは四年目です」

彼女は画面を見たまま答えた。
途端に、周囲が騒めく。

彼女の役職は「主任」。異例の昇進である。
さすが大奥の影の総元締め、という声が上がる。

「管理者IDを取得するための特例です。パスワードをいちいち上司に頼んで入れてもらってたら、仕事になりませんから」

彼女は肩を(すく)めた。

管理者IDのパスワードがないと、勤務する店内の顧客情報しか閲覧できないようになっているのだ。だから、他支店での情報を得るためには、主任以上の許可が必要になる。

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