常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
仙台支店に了承を取った田中 亜湖は、端末で株式の移管処理を行なった。
「これで、わたしの方の事務処理は終わりです。
あとはこちらの方に書類と伝票がありますので、ご記入願います」
田中 亜湖はクリアファイルを山田に渡そうとした……が、大地が上からひょいっ、と田中 亜湖の手から取った。
「課長の印もいるんだよな?」
「はい。何ヶ所かですけど」
「じゃあ……おれが書くよ」
えぇーっ、と周囲がどよめく。上條課長の伝票嫌いは有名な話だ。
「それより、もう一度、先刻の株を見せてくれないか?」
……課長だって管理者ID持ってるのに。
そもそも、もう本店に移管したのだから、店内のだれもが見られるようになったのに。
田中 亜湖はそう思ったが、もう一度画面に出した。端末を課長の方へ向けようと右手を伸ばすと、なぜか大地は田中 亜湖のその手を掴んで制した。そして、左側にいた大地が身を屈めて、画面に顔を寄せる。
必然的に、彼の顔が田中 亜湖の顔のすぐ横まで寄ることになる。しかも、小さな田中 亜湖を、大きな大地が背後からすっぽり包み込むような体勢になっている。
……上條課長、なんだか、とても近いんですけど。
大地はまだ田中 亜湖の手を掴んだままだ。
田中 亜湖は固まって身動きできなかった。