常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
「それでは、わたし失礼しま……」
課長の椅子から立ち上がろうとした田中 亜湖を、
「あ、待て」
大地がクリアファイルの中の書類をパラパラとめくりながら制した。
「ややこしいな……おれ、自分では追証出したことないんだよな。書き方、教えてくれる?」
「それでしたら、署名と捺印だけしてもらうような形にして、また持参します」
大地は電話の受話器を取った。
「あっ、総務?営業二課の上條だけど。小会議室空いてるかな?……『B』は空いてるんだ。じゃあ、ちょっと使うよ」
受話器を置くと、
「さあ、行こう」
大地は田中 亜湖の腕を掴んで、席から立たせた。
……この人、わたしの話、聞いてた?
そう思った頃、田中 亜湖はすでに小会議室に向かうエレベーターの前にいた。