常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
「なぁにぃ、あれ……いつの間に?」
亜湖からは、なにも知らされてなかったけれど。
でも大地は、蓉子が亜湖になにか余計なことでも言うんじゃないかと、警戒している様子だった。
確かに、亜湖の耳に入れたらちょっとまずいかなーって思うことの、一つや二つや三つや四つや五つ……あるにはあるけれど。
……それにしても、大地はブレないわねぇ。
蓉子は感心した。
……亜湖が昔も今も「ど真ん中」みたいなんだもん。
この前、テキーラ対決でべろべろに酔って潰れた蓉子と水島 慶人は、亜湖から同じタクシーに押し込まれたあと、彼のマンションへ行って……ま、なるようになった。
先刻、慶人から【営業部長との会議が終わった】とLINEが届いた。だから、慶人との「職場でのつかの間の逢瀬」を楽しむために、四階の小会議室Aに向かうところだった。
蓉子は鼻歌でも歌いそうなご機嫌ぶりで、階段のある方へ向かった。