常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
上條課長が「大奥」に来たのは、初めてかもしれない。書類や伝票はいつも課付きの事務サポートに渡して持って行かせていたからだ。
大地は激しく悔いていた。もっと早く「どストライク」の亜湖と出逢えていたはずなのに……
営業事務課の事務職たちは、時の人である上條課長がわざわざやってきたので、いつになくざわざわしていた。
大地は辺りを見渡した。
そもそもここは、専用のIDカードがないと入れない「結界」だ。
たとえ、時間外取引で売り抜けて追証の顧客の大ピンチを救った「勇者」大地であっても、専用のIDカードを持たぬ者は結界をくぐれない。
その結界からさらに一番奥、まるで天の岩戸のような巨大な金庫の前に、大地の「お姫さま」は鎮座していた。
……こんなとこにいたんだな。
大地と目が合ったお姫さま……亜湖が席から立ち上がる。
大地は亜湖をしっかりと見据えて「田中主任!」と、よく通る低い声で亜湖を呼んだ。
「追証の顧客の入金処理がわからない。必要な伝票を持ってすぐ来てくれ。小会議室Bだ」
営業事務課の事務職たちの黄色い声で沸き立つ。
亜湖の隣にいた西村が紅潮させた顔で、
「きゃあー、亜湖さん、あの上條課長からのご指名ですよぉー」
と、亜湖の腕をバンバン叩いていた。