常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
大地は亜湖の両肩をしっかり握って言った。
「慶人からなにを聞いたか知らないが、おれが副社長になりたいのは、社内の改革をしたいからだ」
亜湖の揺れる瞳を、大地はしっかりと見据える。
「おまえも会議に出てるから、わかるだろ?
あの危機感のない十年一日変わらない社内の空気を……」
亜湖はこくっ、と肯いた。
「このままの体制では早晩、うちの会社は潰れるか、合併という名でどこかに吸収される。そのくらい、新興のネット証券は脅威だ。本店にいるうちに、慶人と少しでも改善できればよかったんだが、一介の課長の権限では歯が立たない」
確かに、彼らがどんなに会議で改善点を指摘しても、上は聞く耳を持たなかった。
「まず来年、部長職で丸の内に戻ったら、おれは経営企画本部に入る」
本社の経営企画本部といえば、大阪と名古屋にある支社の経営企画部を統括し、あさひ証券の経営方針を決定する最も中枢に位置する部署だ。
部長職の経営企画本部長は並みいる本部長の中でも筆頭になり、常務に次ぐポストである。
もちろん、社内改革をするにあたっては絶好のポストだが……
「いきなり経営企画本部長って、なれるもんなんですか?」
大地は今年やっと三十歳になる。
そんな若造に五十代の経営幹部はポストを譲れるのだろうか?会社の屋台骨の設計を任せてもらえるのだろうか?
水島課長が古巣のITシステム本部に戻って本部長をやるのとは、次元が違う気がする。
不思議に思った亜湖が訊くと、大地は苦笑いした。
「さすが亜湖だな。親父……専務にも一応希望は出してあるんだが、一筋縄ではいかないだろうな」
「うちの父……常務の後押しもあれば、実現しやすいですよね?」
はっきりと、声が震えているのがわかる。
数独の終盤でわからなかった数字がどんどん枠に当てはまっていくように、大地の思惑がどんどん詰んでいくような気がした。
「亜湖?……違う。そんなことのために言ったんじゃない」
せつなげになったことはあったが、決して弱々しくなることはなかった大地の瞳が……初めて揺れた。