常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
ドアを開けると、玄関のライトがパッと点いた。真っ暗な廊下を、また大地を支えながら奥へ進んでいく。
リビングに入ったとたん、目の前の窓一面に、東京の夜景の大パノラマが現れた。
隅田川の方に目をやると、いくつもの橋がライトアップされ、さらにその奥にスカイツリーが瞬いているのが見える。
「……すごい……きれい……っ」
亜湖は思わず息を飲んだ。
「だろ?」
隣で大地がドヤ顔で言う。
「か、上條さん……酔ってたんじゃ?」
亜湖が仰け反って訊く。
「酔ってたよ。こんなに酔っ払ったこと今までにないな、ってくらいに」
大地は苦笑しながら、ダウンライトのパネルスイッチを押した。すると、とたんに、オレンジ色の光が二〇帖はある部屋を包み込む。
「あのコンシェルジュが駆け寄ってきたくらいから、酔いが覚めてきた。おまえを守らないと、って思ったから」
大地はいたずらっ子っぽく言う。
「あの人は持ち場を離れて、上條さんを支えながらここまで連れてきてくれたんですよ?それに、酔いが覚めたんだったら、自分の力で歩いてください」
亜湖は呆れた口調で言った。
「だけど、あいつ、おまえを帰らせないように協力してくれたからな。結構、いいヤツかもしれない」
亜湖は完全に呆れた。
「その分なら大丈夫ですね。……じゃあ、わたしは帰ります」
そう言って玄関の方へ身体を向けた亜湖を……大地が背後からすっぽりと抱きしめた。
「『上條さん』って呼び方が気に食わない」
……じゃあ、なんて呼べば気に入るのよ?
でも、先刻からなんだか話が噛み合わない気がする。きっと、まだ完全に酔いが覚めていないのだろう。
「わたし、本当に帰りますから」
実はまだ、名古屋にいる父親に「報告」していないのだ。そもそも、今日の呑み会自体、連絡していない。こんなのは初めてだった。
大地の亜湖を抱きしめる腕に力が篭る。
「……今夜は、朝まで帰さないからな」
大地が亜湖の耳元で低く囁いた。
亜湖が弱い、甘く焦れた声で。