常務の愛娘の「田中さん」を探せ!

ドアを開けると、玄関のライトがパッと点いた。真っ暗な廊下を、また大地を支えながら奥へ進んでいく。

リビングに入ったとたん、目の前の窓一面に、東京の夜景の大パノラマが現れた。
隅田川の方に目をやると、いくつもの橋がライトアップされ、さらにその奥にスカイツリーが(またた)いているのが見える。

「……すごい……きれい……っ」

亜湖は思わず息を飲んだ。

「だろ?」

隣で大地がドヤ顔で言う。

「か、上條さん……酔ってたんじゃ?」

亜湖が()()って訊く。

「酔ってたよ。こんなに酔っ払ったこと今までにないな、ってくらいに」

大地は苦笑しながら、ダウンライトのパネルスイッチを押した。すると、とたんに、オレンジ色の光が二〇帖はある部屋を包み込む。

「あのコンシェルジュが駆け寄ってきたくらいから、酔いが覚めてきた。おまえを守らないと、って思ったから」

大地はいたずらっ子っぽく言う。

「あの人は持ち場を離れて、上條さんを支えながらここまで連れてきてくれたんですよ?それに、酔いが覚めたんだったら、自分の力で歩いてください」

亜湖は呆れた口調で言った。

「だけど、あいつ、おまえを帰らせないように協力してくれたからな。結構、いいヤツかもしれない」

亜湖は完全に呆れた。

「その分なら大丈夫ですね。……じゃあ、わたしは帰ります」

そう言って玄関の方へ身体(からだ)を向けた亜湖を……大地が背後からすっぽりと抱きしめた。

「『上條さん』って呼び方が気に食わない」

……じゃあ、なんて呼べば気に入るのよ?

でも、先刻(さっき)からなんだか話が噛み合わない気がする。きっと、まだ完全に酔いが覚めていないのだろう。

「わたし、本当に帰りますから」

実はまだ、名古屋にいる父親に「報告」していないのだ。そもそも、今日の呑み会自体、連絡していない。こんなのは初めてだった。

大地の亜湖を抱きしめる腕に力が(こも)る。

「……今夜は、朝まで帰さないからな」

大地が亜湖の耳元で低く(ささや)いた。
亜湖が弱い、甘く焦れた声で。

< 162 / 256 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop