常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
亜湖は大地のマンションに来たくなかった。
きっと、今までにつき合ってきた何人もの女の人が訪れているはずだから。
水島課長は「とっかえひっかえ」だと言っていたではないか。
もしかしたら、部屋のどこかに、それを窺わせるなにかがあるかもしれない。
それが……怖かった。
だから、亜湖はこの部屋に足を踏み入れてから、なるべく辺りを見ないようにしていた。
一刻も早くこの場を去りたかった。
でも……できなかった。
それどころか大地に、先に入ってこい、と言われて、亜湖はバスルームで熱いシャワーを浴びていた。そこでも、極力、周囲を見ないようにした。
だけど、洗顔フォーム・シャンプーやボディーソープなどは借りなければならない。
もしかして、だれかが好きだったものじゃないのかな?などと考えずにはいられなかった。
亜湖は髪をドライヤーで乾かしたあと、シフォンのトップスをインした膝上丈のフレアスカート……つまり、元通りの姿でリビングへ戻った。
モノトーン調のリビングには、黒いカウチソファと無垢のウォールナットのローテーブルしか家具はなかった。
Tシャツとハーフパンツに着替えた大地が、カウチソファでポカリのペットボトルを飲んでいた。亜湖のきちっと整えた姿を見て、少し顔が曇る。
しかし、すっと立ち上がってバスルームへ向かう。
「……すぐに出てくるから、帰るなよ」
すれ違いざま、亜湖の頭をぽんぽん、とした。
亜湖は、大地が座っていたカウチソファに腰かけた。ほんとはここにも座りたくない。
ましてや、大地がだれかほかの人と使ったベッドなんて考えられない。
……篠原さんもここに来てたんだろうな。