常務の愛娘の「田中さん」を探せ!

亜湖のシフォンの白い七分丈トップスとペールブルーのフレアスカートに合わせるように、大地はネイビーと白のボーダーの半袖サマーニットとオフホワイトのクロップドパンツを身に着けた。

「焼肉、食いてぇな」

昨夜からがっつり体力を使った大地は「そういう関係」になった男女が食べに行くという都市伝説の定番料理を挙げた。

「ん……そうだ。二人用の個室がある小洒落たお店、知ってるけど?」

……なんでそんな「お忍び」っぽい店を知ってんだ?だれと二人でそんな店に行ってんだ?

大地が眉を(ひそ)める。

「蓉子と美味(おい)しいお店を食べ歩きしてるの」

亜湖はふふっ、と笑った。

……また、蓉子か。慶人だけじゃなく蓉子まで恨めしくなってきた。

亜湖は安くてもっとがっつり食べられる焼肉屋も知っていた。でも、大地に呼ばれてショットバーへは行ったが、呑み会のあとだったのであまり「デート」のようには思えなかったから、ごはんを二人で食べに行く今が「初デート」のような気がした。だから、雰囲気を大事にしたかった。


二人で部屋を出るとき、亜湖がなにやら辺りを見回していたので、

「亜湖、どうした?」

と大地が尋ねると、亜湖が答えた。

「忘れ物は絶対しちゃいけないな、って思って」

大地が怪訝な顔になる。

「だって以前、彼女と別れる際に、部屋に残った私物で揉めたんでしょ?」

大地の顳顬(こめかみ)に青筋が立った。

「なんでつき合い始めたばっかりなのに、別れるときのことを考えるんだ!?」

「だって……」

亜湖がきょとんとする。

「実家にあるおまえの私物、まるごと持ってこいっ!喜んで置いてやっからっ!!」

……おれがおまえをこの部屋に入れた意味を、まーったく理解(わか)っていない。

< 216 / 256 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop