マドンナブルー
二人の乗った車が咲羅の家に着いたときには、嘘のように太陽が顔を出していた。
泣いた直後の顔を安藤に見られたくない咲羅は、助手席側から外に出た。ぺこっと会釈をすると、すぐに彼に背を向けて歩き出した。団地のため、車を停車した場所から少し距離がある。咲羅は、背後でなかなか車を発進させない安藤を気にした。
車内で咲羅が泣き出してからというもの、彼は終始無言だった。わけをたずねるでもなく、慰めるでもなく、ただ黙っていた。別れ際に咲羅が会釈したときでさえも、彼の態度に変化はなかった。眼球が白い膜で覆われたように、ぼんやりと遠くを見る目だった。
そのとき、「吉岡!」と安藤に呼び止められた。咲羅が振り返ると、彼は車のそばに立っていた。二人の目が会うと、彼は何か吹っ切れたような屈託のない笑顔を広げた。
「今度からは、朝美術室に来るんだぞ。僕は行かないから、ちゃんと来るんだぞ。休みの日までバス代払うことないだろう」
そう言い終えると、「ではまたね」と残し、車内に乗り込み発進させた。咲羅は、茫然と車が走り去った先を見つめていた。
自宅に、母の姿はなかった。おそらく買い物にでも行っているのだろう。おかげで沈んだ顔を見られずにすんだ。
咲羅はベッドに突っ伏すと、そのまましばらく動かないでいた。
突然、携帯電話の着信音が響いた。発進元に、梅田の名前が表示されている。そのことが、さらに彼女を沈めた。梅田に対する負の感情からくるものではなく、自己嫌悪からくるものだった。
少しためらった後、咲羅は電話に出た。
「咲羅?まだ学校?」
梅田の明るい声が、電話口から聞こえた。
「ううん。今家に帰ってきたとこ」
「けっこう早かったんだな。作品、期日まで仕上がりそうか?」
「うん。たぶんね」
「なんか、今日の咲羅元気ないね」
「そんなことないよ。少し疲れてるだけ」
「俺も元気ないよ。今日は咲羅の顔見てないから元気でないよ。咲羅に会いたい」
彼は甘えたように言った。咲羅は限界を感じた。罪悪感で、胸がつぶれそうだった。
「あのね、陽一君!」
思い切ったように声を張り上げた。梅田からの返答はない。今度は弱気な声で「あのね・・・・・・」と言いよどんだ後、
「じつは、話したいことがあるの・・・・・・」
「・・・・・・」
「陽一君?」
「あ、ああ・・・・・・。聞いてるよ」
「あのね、話というのはね・・・・・・」
「何も今電話で言うことないだろう」
と彼はさえぎり、
「直接会って聞くよ。明日会おう」
彼は待ち合わせ場所を指定すると、電話を切った。
泣いた直後の顔を安藤に見られたくない咲羅は、助手席側から外に出た。ぺこっと会釈をすると、すぐに彼に背を向けて歩き出した。団地のため、車を停車した場所から少し距離がある。咲羅は、背後でなかなか車を発進させない安藤を気にした。
車内で咲羅が泣き出してからというもの、彼は終始無言だった。わけをたずねるでもなく、慰めるでもなく、ただ黙っていた。別れ際に咲羅が会釈したときでさえも、彼の態度に変化はなかった。眼球が白い膜で覆われたように、ぼんやりと遠くを見る目だった。
そのとき、「吉岡!」と安藤に呼び止められた。咲羅が振り返ると、彼は車のそばに立っていた。二人の目が会うと、彼は何か吹っ切れたような屈託のない笑顔を広げた。
「今度からは、朝美術室に来るんだぞ。僕は行かないから、ちゃんと来るんだぞ。休みの日までバス代払うことないだろう」
そう言い終えると、「ではまたね」と残し、車内に乗り込み発進させた。咲羅は、茫然と車が走り去った先を見つめていた。
自宅に、母の姿はなかった。おそらく買い物にでも行っているのだろう。おかげで沈んだ顔を見られずにすんだ。
咲羅はベッドに突っ伏すと、そのまましばらく動かないでいた。
突然、携帯電話の着信音が響いた。発進元に、梅田の名前が表示されている。そのことが、さらに彼女を沈めた。梅田に対する負の感情からくるものではなく、自己嫌悪からくるものだった。
少しためらった後、咲羅は電話に出た。
「咲羅?まだ学校?」
梅田の明るい声が、電話口から聞こえた。
「ううん。今家に帰ってきたとこ」
「けっこう早かったんだな。作品、期日まで仕上がりそうか?」
「うん。たぶんね」
「なんか、今日の咲羅元気ないね」
「そんなことないよ。少し疲れてるだけ」
「俺も元気ないよ。今日は咲羅の顔見てないから元気でないよ。咲羅に会いたい」
彼は甘えたように言った。咲羅は限界を感じた。罪悪感で、胸がつぶれそうだった。
「あのね、陽一君!」
思い切ったように声を張り上げた。梅田からの返答はない。今度は弱気な声で「あのね・・・・・・」と言いよどんだ後、
「じつは、話したいことがあるの・・・・・・」
「・・・・・・」
「陽一君?」
「あ、ああ・・・・・・。聞いてるよ」
「あのね、話というのはね・・・・・・」
「何も今電話で言うことないだろう」
と彼はさえぎり、
「直接会って聞くよ。明日会おう」
彼は待ち合わせ場所を指定すると、電話を切った。