マドンナブルー
梅田の体はテーブルを越えた。二人の体は重なり合って、床に崩れ落ちた。彼は咲羅に覆いかぶさったまま、邪魔となったテーブルを蹴って押しのけた。そのはずみでカップが転がり、黒い液体がポタポタと床にしたたり落ちた。行き場に困っていた彼の左手は、右手とともに、しっかりと咲羅の体に回されていた。
咲羅は、梅田に身をゆだねていた。・・・・・・いや、ゆだねるというよりむしろ積極的だった。彼の背に手を回し、彼の舌に自分の舌を絡めていた。
<曲のせいにしてしまおう。この、甘すぎる曲がいけないんだ・・・・・・>
咲羅は浪々とした波に流されていった。・・・・・・が、彼女を入り江に引き戻す事態が起こった。彼女の太ももに押し当たるこわばりに、恐怖を覚えたのだ。
「陽一君やめて!」
咲羅の首にあった梅田の動きが、ピタリと止まった。スピーカーからの曲は、いつの間にかアップテンポのものに変わっている。
「えっ・・・・・・」
梅田は頓狂な声を出し、顔を上げた。寝ぼけ眼のような目をしている。
「何言ってんだよ。最後までやらせろよ」
「だって私たち別れたじゃない」
彼は放心したような目を宙に据え、考えをたぐった。やがて、彼の目はあざけるように光り出した。
「咲羅だって本当はやりたいんだろ?あんなに楽しそうだったじゃないか」
咲羅はボッと赤面した。先ほどの、自分でいて自分ではない行動を思い出したのだ。しかし、あれは紛れもなく咲羅である。そのため、彼女の発言はしどろもどろとなった。
「私たち、別れたじゃない・・・・・・」
自信なさげに繰り返した。
「俺たちまだ別れてないよ。別れるのは明日にしようって言ったじゃん」
咲羅の表情は凍りついた。両手を彼の胸に当て、押しのけようと試みる。・・・・・・が、びくともしない。
梅田は、自分の体の下でじたばたとあがく咲羅の姿を、いじらしいと思った。同時に彼の情欲を刺激する。彼は自分の胸にある咲羅の両手首をつかみ取ると、それを彼女の顔の両脇へ運び、床に押し付けた。体をゆすって抵抗する咲羅を無視し、彼女の体に視線を下ろした。
咲羅のブラウスの上半分のボタンが、いつの間にかすでにはずされていた。白いブラジャーの左右の布片から、乳房がこぼれている。その谷間に、梅田はそっと舌を差し入れた。ゆっくり上昇させてゆき、あごの先端までたどった。その間、咲羅は抵抗の言葉を口にしていた。しかしそれに反し、こわばった彼女の上半身は小刻みに震えながら、大きく床から浮き上がった。
「かわいい。咲羅ってこんなに感じやすかったんだな」
梅田はふたたび同じ動作を繰り返した。
「自分でわかる?咲羅の体、すごく俺をほしがってる」
彼の手は、いまだ抵抗を試みる咲羅の手首を床に押し付けていた。そのため唇と舌を使い、彼女を愛撫する。ときおり、彼女の耳元に官能的な言葉を流し込んだ。
咲羅は反発しながらも、熱いものが全身をめぐるのを感じ、動揺した。やがて、もうどうにでもなれと、投げやりな気分におちいった。・・・・・・が、ふいに安藤が脳裏に現れた。
「陽一君!お願いやめて!こんなことするなんて、陽一君らしくない!」
さいさん抵抗を示しても、それをかえって面白がり、情欲を掻き立てられていくような勢いを見せていた梅田の動きが、ピタリと止まった。
「陽一君・・・・・・?」
胸騒ぎがした。咲羅はあごを引いて、自分の胸の上で動かなくなった彼を確認した。いぜん、彼女の両手首は押さえつけられており、上体が不自由なのだ。不穏な静けさが流れる・・・・・・。この不安な気持ちは、前にも経験したことがある。彼が激昂した、夜の学校での一件である。
「俺らしくないってなんだよ・・・・・・」
彼はボソッとつぶやいた。
「俺らしいって何だよ・・・・・・」
彼はゆっくと顔を上げた。無表情の中に、悲しさがにじんでいた。
「俺がセックスしたら、それは俺らしくないってこと?」
「別に、そういうわけじゃ・・・・・・」
「俺はセックスなんて興味ないし、咲羅に求めたりもしないって、俺のことそんなふうに思ってた?」
「違うの、そんなつもりで言ったんじゃないの・・・・・・」
梅田はやけに穏やかで、それが怖かった。無表情だった彼の目が、何か気づいたようにギラッと光った。口元には薄笑いを浮かべている。
「俺、毎日オナニーしてるって言ったら気持ち悪い?それも咲羅の裸を想像して、咲羅ん中にぶちこんでることを妄想しながら抜いてたって言ったら気持ち悪い?俺らしくない?いつになったら咲羅とやれるんだろうって、いつも頭ん中セックスのことでいっぱいだったって言ったら俺らしくない?幻滅する?」
「ごめんなさい。本当にそんなんじゃ・・・・・・」
「だってそういうことだろう!」
と彼は怒鳴った。手首をつかむ彼の手に力が入り、恐怖から咲羅は目をつむった。
「どうせ俺のこと、男として見てなかったんだろ?」
「・・・・・・」
「俺が、本当はどんな人間なのか教えてやるよ」
梅田はおびえる咲羅の耳元でささやくと、彼女のブラウスの合わせ目を両手でつかみ、勢いよく左右に引っ張った。ボタンが飛び散り、コツッコツッと床を跳ねた。彼は、それからブラジャーを押し上げ、乳房をあらわにさせた。肉が流れるのを押し上げられたブラがせき止め、二つの山をなしている。梅田はそれを、両手で強くつかんだ。乳房は手のひらに余り、十本の指は、少しずつ肉塊の中へうずもれていく。
咲羅は苦痛の声をもらした。しかし抵抗はしなかった。梅田の暴威的な態度に圧倒され、おじけづいたためではない。そのときの咲羅の目に、幼少の梅田の幻影が、彼と重なり合うように映っていたのだ。寂しそうで弱々しい、少年の姿である。そのため咲羅は、梅田を受け止めたい気持ちが動いた。彼を優しく包み込みたいという、衝動のような思いが突き上がったのだった。
一方の梅田はというと、復讐心のような黒い感情に支配されていた。交接が目的というより、咲羅を痛めつけることを目的としているようで、狂気じみた光を目の中でギラつかせ、乱暴に咲羅の体をもてあそんだ。
咲羅は耐え難い痛みと恥辱で涙があふれた。さすがにこれは、あんまりなのではないか・・・・・・、と限界に達しかけていた。
「陽一君もうやめて!お願いだから、もう許して!」
梅田は正気を取り戻したように、ハッと青ざめた顔をし、咲羅から離れた。ようやく苦痛から開放された咲羅は、茫然とし、しばらくの間起き上がれなかった。頭が働き始めると、梅田が気がかりとなる。ブラジャーの位置を戻し、ブラウスの合わせ目を胸の中心で重ね合わせ、手で押さえながら起き上がった。
部屋を見回し梅田を探した。彼は、部屋の隅にいた。咲羅に背を向け、両脚を抱え込んでうずくまっている。咲羅は立ち上がり、彼のそばへ行った。泣いているようで、背中が小さく震えている。咲羅はその背を、そっと抱きしめた。驚いたように、彼はビクッとなった。
「ごめん。本当にごめん。許してくれ・・・・・・」
彼は顔をひざに伏せたまま、小声で言った。二人はしばらくの間、無言で動かないでいた。やがて、彼が「帰ってくれ」とボソッと言った。咲羅が応じないでいると、少し語調を強め、同じ言葉を繰り返した。それでも咲羅は彼から離れなかった。苛立ったような「帰れよ!」という言葉で、ようやく彼から離れた。
咲羅は身支度を整え始めた。ブラウスの下半分のボタンがないことに気づいた。バッグを抱えて帰ろうと思い、戸口へ向かった。
部屋を出る際、梅田のほうへ振り返った。相変わらず、彼はうずくまっている。そして、いぜんとして咲羅の目に、幼少の梅田の幻影が、彼と重なって映っていた。
咲羅は、梅田に身をゆだねていた。・・・・・・いや、ゆだねるというよりむしろ積極的だった。彼の背に手を回し、彼の舌に自分の舌を絡めていた。
<曲のせいにしてしまおう。この、甘すぎる曲がいけないんだ・・・・・・>
咲羅は浪々とした波に流されていった。・・・・・・が、彼女を入り江に引き戻す事態が起こった。彼女の太ももに押し当たるこわばりに、恐怖を覚えたのだ。
「陽一君やめて!」
咲羅の首にあった梅田の動きが、ピタリと止まった。スピーカーからの曲は、いつの間にかアップテンポのものに変わっている。
「えっ・・・・・・」
梅田は頓狂な声を出し、顔を上げた。寝ぼけ眼のような目をしている。
「何言ってんだよ。最後までやらせろよ」
「だって私たち別れたじゃない」
彼は放心したような目を宙に据え、考えをたぐった。やがて、彼の目はあざけるように光り出した。
「咲羅だって本当はやりたいんだろ?あんなに楽しそうだったじゃないか」
咲羅はボッと赤面した。先ほどの、自分でいて自分ではない行動を思い出したのだ。しかし、あれは紛れもなく咲羅である。そのため、彼女の発言はしどろもどろとなった。
「私たち、別れたじゃない・・・・・・」
自信なさげに繰り返した。
「俺たちまだ別れてないよ。別れるのは明日にしようって言ったじゃん」
咲羅の表情は凍りついた。両手を彼の胸に当て、押しのけようと試みる。・・・・・・が、びくともしない。
梅田は、自分の体の下でじたばたとあがく咲羅の姿を、いじらしいと思った。同時に彼の情欲を刺激する。彼は自分の胸にある咲羅の両手首をつかみ取ると、それを彼女の顔の両脇へ運び、床に押し付けた。体をゆすって抵抗する咲羅を無視し、彼女の体に視線を下ろした。
咲羅のブラウスの上半分のボタンが、いつの間にかすでにはずされていた。白いブラジャーの左右の布片から、乳房がこぼれている。その谷間に、梅田はそっと舌を差し入れた。ゆっくり上昇させてゆき、あごの先端までたどった。その間、咲羅は抵抗の言葉を口にしていた。しかしそれに反し、こわばった彼女の上半身は小刻みに震えながら、大きく床から浮き上がった。
「かわいい。咲羅ってこんなに感じやすかったんだな」
梅田はふたたび同じ動作を繰り返した。
「自分でわかる?咲羅の体、すごく俺をほしがってる」
彼の手は、いまだ抵抗を試みる咲羅の手首を床に押し付けていた。そのため唇と舌を使い、彼女を愛撫する。ときおり、彼女の耳元に官能的な言葉を流し込んだ。
咲羅は反発しながらも、熱いものが全身をめぐるのを感じ、動揺した。やがて、もうどうにでもなれと、投げやりな気分におちいった。・・・・・・が、ふいに安藤が脳裏に現れた。
「陽一君!お願いやめて!こんなことするなんて、陽一君らしくない!」
さいさん抵抗を示しても、それをかえって面白がり、情欲を掻き立てられていくような勢いを見せていた梅田の動きが、ピタリと止まった。
「陽一君・・・・・・?」
胸騒ぎがした。咲羅はあごを引いて、自分の胸の上で動かなくなった彼を確認した。いぜん、彼女の両手首は押さえつけられており、上体が不自由なのだ。不穏な静けさが流れる・・・・・・。この不安な気持ちは、前にも経験したことがある。彼が激昂した、夜の学校での一件である。
「俺らしくないってなんだよ・・・・・・」
彼はボソッとつぶやいた。
「俺らしいって何だよ・・・・・・」
彼はゆっくと顔を上げた。無表情の中に、悲しさがにじんでいた。
「俺がセックスしたら、それは俺らしくないってこと?」
「別に、そういうわけじゃ・・・・・・」
「俺はセックスなんて興味ないし、咲羅に求めたりもしないって、俺のことそんなふうに思ってた?」
「違うの、そんなつもりで言ったんじゃないの・・・・・・」
梅田はやけに穏やかで、それが怖かった。無表情だった彼の目が、何か気づいたようにギラッと光った。口元には薄笑いを浮かべている。
「俺、毎日オナニーしてるって言ったら気持ち悪い?それも咲羅の裸を想像して、咲羅ん中にぶちこんでることを妄想しながら抜いてたって言ったら気持ち悪い?俺らしくない?いつになったら咲羅とやれるんだろうって、いつも頭ん中セックスのことでいっぱいだったって言ったら俺らしくない?幻滅する?」
「ごめんなさい。本当にそんなんじゃ・・・・・・」
「だってそういうことだろう!」
と彼は怒鳴った。手首をつかむ彼の手に力が入り、恐怖から咲羅は目をつむった。
「どうせ俺のこと、男として見てなかったんだろ?」
「・・・・・・」
「俺が、本当はどんな人間なのか教えてやるよ」
梅田はおびえる咲羅の耳元でささやくと、彼女のブラウスの合わせ目を両手でつかみ、勢いよく左右に引っ張った。ボタンが飛び散り、コツッコツッと床を跳ねた。彼は、それからブラジャーを押し上げ、乳房をあらわにさせた。肉が流れるのを押し上げられたブラがせき止め、二つの山をなしている。梅田はそれを、両手で強くつかんだ。乳房は手のひらに余り、十本の指は、少しずつ肉塊の中へうずもれていく。
咲羅は苦痛の声をもらした。しかし抵抗はしなかった。梅田の暴威的な態度に圧倒され、おじけづいたためではない。そのときの咲羅の目に、幼少の梅田の幻影が、彼と重なり合うように映っていたのだ。寂しそうで弱々しい、少年の姿である。そのため咲羅は、梅田を受け止めたい気持ちが動いた。彼を優しく包み込みたいという、衝動のような思いが突き上がったのだった。
一方の梅田はというと、復讐心のような黒い感情に支配されていた。交接が目的というより、咲羅を痛めつけることを目的としているようで、狂気じみた光を目の中でギラつかせ、乱暴に咲羅の体をもてあそんだ。
咲羅は耐え難い痛みと恥辱で涙があふれた。さすがにこれは、あんまりなのではないか・・・・・・、と限界に達しかけていた。
「陽一君もうやめて!お願いだから、もう許して!」
梅田は正気を取り戻したように、ハッと青ざめた顔をし、咲羅から離れた。ようやく苦痛から開放された咲羅は、茫然とし、しばらくの間起き上がれなかった。頭が働き始めると、梅田が気がかりとなる。ブラジャーの位置を戻し、ブラウスの合わせ目を胸の中心で重ね合わせ、手で押さえながら起き上がった。
部屋を見回し梅田を探した。彼は、部屋の隅にいた。咲羅に背を向け、両脚を抱え込んでうずくまっている。咲羅は立ち上がり、彼のそばへ行った。泣いているようで、背中が小さく震えている。咲羅はその背を、そっと抱きしめた。驚いたように、彼はビクッとなった。
「ごめん。本当にごめん。許してくれ・・・・・・」
彼は顔をひざに伏せたまま、小声で言った。二人はしばらくの間、無言で動かないでいた。やがて、彼が「帰ってくれ」とボソッと言った。咲羅が応じないでいると、少し語調を強め、同じ言葉を繰り返した。それでも咲羅は彼から離れなかった。苛立ったような「帰れよ!」という言葉で、ようやく彼から離れた。
咲羅は身支度を整え始めた。ブラウスの下半分のボタンがないことに気づいた。バッグを抱えて帰ろうと思い、戸口へ向かった。
部屋を出る際、梅田のほうへ振り返った。相変わらず、彼はうずくまっている。そして、いぜんとして咲羅の目に、幼少の梅田の幻影が、彼と重なって映っていた。