マドンナブルー
「やっぱり別れたのね」
そう話す美奈子から、物憂げな空気が立ちのぼっていた。咲羅と美奈子は、学校帰り喫茶店に立ち寄っていた。
「それで、これからどうするの?やっぱり好きな安藤先生を追うの?」
「まさか!相手は教師なのよ」
「まあそうよね。あの堅物の安藤先生だしね。間違っても生徒に手を出すわけないか。それなら、卒業式に告白するのはどお?」
咲羅としては、この話題を早く終わらせたかった。
「本当に、先生のことはもういいんだってば。たぶん憧れみたいなものなんだし」
美奈子は割り切れない表情で、「ふーん」と言った。片手で頬杖をつき、一方の手でストローをつまみ、アイスコーヒーの中に浮かぶ氷をカラカラとかき混ぜている。彼女の関心は、咲羅と安藤の恋の行方からすでにそれたようである。物憂そうに、焦点の定まらない場所に視線を投げていた。
最近の美奈子はよくこの顔をする。その原因は、おそらく大学生の彼氏の及川にあるのだろう。頻繁に美奈子の話題にのぼっていた彼が、最近めっきり姿を見せないのだ。ということは、美奈子も彼について触れてほしくないのではと思い、咲羅も彼の近況をたずねてはこなかった。
咲羅は、どこか遠くを眺める美奈子に遠慮がちに話しかけた。
「美奈子、あのね」
「うん・・・・・・」
生返事が返ってきた。咲羅は再度、思い切ったように美奈子を呼んだ。彼女にしか相談できない話を、今から言葉にしようとしているのである。
「別れようと決めたのに、その人にエッチな気持ちを持ったらおかしいかな・・・・・・」
美奈子の目は、咲羅を正面に捉えた。光が戻っていた。輝いていると言ってよい。
「梅田君とやったの!?」
「違う違う!違うけど、そういうことがしたくて、どうしようもない気分になったの・・・・・・」
「ぜんぜん話がわかんない。詳しく教えて」
美奈子は急に活気付いていた。咲羅は多くを端折って説明した。梅田の乱暴な振る舞いについては伏せた。
一とおり聞き終えた美奈子は、得意顔で「つまり」と切り出し、昨日の咲羅の心理を解説し始めた。
「梅田君の家に二人っきりで、ロマンチックな音楽を聴いていたら、なんだかいい気分になったというわけね。そこで彼にキスされたら、エッチな気分になったというわけね」
「うん。そんなところ」
「どうしよう!私たち別れたのに!私は安藤先生が好きなはずなのに!私どうしちゃったのかしら、こんなエッチな気分になるなんて、私ってエロい女なのかしら!・・・・・・ていう感じ?」
美奈子は体をくねらせ、咲羅のまねをしているようである。その姿がやたらぶりっ子だったため、咲羅はバカにされたような気分となった。
「勇気を出して相談したのに、からかうなんてひどい!」
「アハハハッ、ごめんごめん。だって面白かったんだもん」
仕切りなおすように美奈子は真剣な表情となり、
「咲羅はぜんぜんおかしくないよ。愛イコールセックスがすべてじゃないのよ。だから性風俗店が成り立つわけじゃない。嫌いな人に発情することはないだろうけど、少なくとも梅田君のこと、嫌いで別れたわけじゃないんでしょ?」
「うん。まあ・・・・・・」
「そりゃあそうよね。あの梅田君だもんね。つまり、人間だってしょせん根幹は動物にすぎないってことよ」
そう美奈子は締めくくった。彼女は、やはり頼もしいと咲羅は思った。
そう話す美奈子から、物憂げな空気が立ちのぼっていた。咲羅と美奈子は、学校帰り喫茶店に立ち寄っていた。
「それで、これからどうするの?やっぱり好きな安藤先生を追うの?」
「まさか!相手は教師なのよ」
「まあそうよね。あの堅物の安藤先生だしね。間違っても生徒に手を出すわけないか。それなら、卒業式に告白するのはどお?」
咲羅としては、この話題を早く終わらせたかった。
「本当に、先生のことはもういいんだってば。たぶん憧れみたいなものなんだし」
美奈子は割り切れない表情で、「ふーん」と言った。片手で頬杖をつき、一方の手でストローをつまみ、アイスコーヒーの中に浮かぶ氷をカラカラとかき混ぜている。彼女の関心は、咲羅と安藤の恋の行方からすでにそれたようである。物憂そうに、焦点の定まらない場所に視線を投げていた。
最近の美奈子はよくこの顔をする。その原因は、おそらく大学生の彼氏の及川にあるのだろう。頻繁に美奈子の話題にのぼっていた彼が、最近めっきり姿を見せないのだ。ということは、美奈子も彼について触れてほしくないのではと思い、咲羅も彼の近況をたずねてはこなかった。
咲羅は、どこか遠くを眺める美奈子に遠慮がちに話しかけた。
「美奈子、あのね」
「うん・・・・・・」
生返事が返ってきた。咲羅は再度、思い切ったように美奈子を呼んだ。彼女にしか相談できない話を、今から言葉にしようとしているのである。
「別れようと決めたのに、その人にエッチな気持ちを持ったらおかしいかな・・・・・・」
美奈子の目は、咲羅を正面に捉えた。光が戻っていた。輝いていると言ってよい。
「梅田君とやったの!?」
「違う違う!違うけど、そういうことがしたくて、どうしようもない気分になったの・・・・・・」
「ぜんぜん話がわかんない。詳しく教えて」
美奈子は急に活気付いていた。咲羅は多くを端折って説明した。梅田の乱暴な振る舞いについては伏せた。
一とおり聞き終えた美奈子は、得意顔で「つまり」と切り出し、昨日の咲羅の心理を解説し始めた。
「梅田君の家に二人っきりで、ロマンチックな音楽を聴いていたら、なんだかいい気分になったというわけね。そこで彼にキスされたら、エッチな気分になったというわけね」
「うん。そんなところ」
「どうしよう!私たち別れたのに!私は安藤先生が好きなはずなのに!私どうしちゃったのかしら、こんなエッチな気分になるなんて、私ってエロい女なのかしら!・・・・・・ていう感じ?」
美奈子は体をくねらせ、咲羅のまねをしているようである。その姿がやたらぶりっ子だったため、咲羅はバカにされたような気分となった。
「勇気を出して相談したのに、からかうなんてひどい!」
「アハハハッ、ごめんごめん。だって面白かったんだもん」
仕切りなおすように美奈子は真剣な表情となり、
「咲羅はぜんぜんおかしくないよ。愛イコールセックスがすべてじゃないのよ。だから性風俗店が成り立つわけじゃない。嫌いな人に発情することはないだろうけど、少なくとも梅田君のこと、嫌いで別れたわけじゃないんでしょ?」
「うん。まあ・・・・・・」
「そりゃあそうよね。あの梅田君だもんね。つまり、人間だってしょせん根幹は動物にすぎないってことよ」
そう美奈子は締めくくった。彼女は、やはり頼もしいと咲羅は思った。