マドンナブルー
翌朝、咲羅は美術室にいた。制作の準備をしていると、あることに気づいた。彼女のキャンバスの木枠に、折りたたまれた紙片が画鋲でとめられていた。彼女は取り上げ、紙片を開いた。それは安藤からの手紙だった。
“ おはよう。吉岡がまた美術室に来るようになり安心しました。・・・・・・ ”
という文頭で始まり、彼女の作品への助言が細かく記されていた。安藤の書いた文字は、繊細で美しかった。すると、すぐに彼のごつごつとした男性的な手を思い出してしまう。咲羅は、茫然とその手紙を眺めていた。そして、なんだか腹が立ってきた。
<私のことなんかほっといてくれればいいのに>
咲羅は返信するためペンをとった。
“ お心遣い感謝します。ぜひ参考にさせていただきます ”
安藤の手紙がとめてあった場所に同じところに、咲羅は手紙をとめた。
****
安藤からの手紙は翌日も続いた。内容は昨日とほぼ同じで、作品への助言である。その手紙は三日続いた。内容は咲羅の作品への指導なのだが、それ以外に彼女の心をこじ開けようと試みる彼の意図が、丁寧な文章ににじんでいた。咲羅は意固地になって反発し、よそよそしくそっけない手紙を返していた。彼に気を許してなるものか、と決め込んでいたのだが、手紙のやり取りが三日目となった日、彼女は根を上げたようにこんな手紙を書いてしまった。
“ 久しぶりに先生のコーヒーが飲みたいです ”
翌朝咲羅が美術室に行くと、安藤の姿がすでにあった。彼は以前と同じように窓際にたたずんでいた。
「おはよう」
と彼が振り向いて言った。
「おはようございます」
と咲羅は返した。早朝の美術室でのこのシチュエーションは、およそ三ヶ月ぶりのことである。それなのに、毎日同じ状況が繰り返されてきた錯覚が、彼女を捉えた。久々に安藤とここで会ってみて、咲羅の心境にも変化があった。ちくちくとした胸の痛みがなくなり、さわやかな気持ちだけがあった。思えばこの三ヶ月間、さまざまなことが咲羅の身に起きた。初めての彼氏ができた。初めてのキスもした。彼との仲がもつれたが、円満な解決に持っていくこともできた。それらの生新な出来事が、彼女の未熟な皮膚をはがしたのかもしれない。もしくは傷つくまいとする、たんなる自己防衛なのかもしれない。しかし、いずれにせよ咲羅は今の境地に満足していた。もう、傷ついたり悩んだりするのは嫌だった。
“ おはよう。吉岡がまた美術室に来るようになり安心しました。・・・・・・ ”
という文頭で始まり、彼女の作品への助言が細かく記されていた。安藤の書いた文字は、繊細で美しかった。すると、すぐに彼のごつごつとした男性的な手を思い出してしまう。咲羅は、茫然とその手紙を眺めていた。そして、なんだか腹が立ってきた。
<私のことなんかほっといてくれればいいのに>
咲羅は返信するためペンをとった。
“ お心遣い感謝します。ぜひ参考にさせていただきます ”
安藤の手紙がとめてあった場所に同じところに、咲羅は手紙をとめた。
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安藤からの手紙は翌日も続いた。内容は昨日とほぼ同じで、作品への助言である。その手紙は三日続いた。内容は咲羅の作品への指導なのだが、それ以外に彼女の心をこじ開けようと試みる彼の意図が、丁寧な文章ににじんでいた。咲羅は意固地になって反発し、よそよそしくそっけない手紙を返していた。彼に気を許してなるものか、と決め込んでいたのだが、手紙のやり取りが三日目となった日、彼女は根を上げたようにこんな手紙を書いてしまった。
“ 久しぶりに先生のコーヒーが飲みたいです ”
翌朝咲羅が美術室に行くと、安藤の姿がすでにあった。彼は以前と同じように窓際にたたずんでいた。
「おはよう」
と彼が振り向いて言った。
「おはようございます」
と咲羅は返した。早朝の美術室でのこのシチュエーションは、およそ三ヶ月ぶりのことである。それなのに、毎日同じ状況が繰り返されてきた錯覚が、彼女を捉えた。久々に安藤とここで会ってみて、咲羅の心境にも変化があった。ちくちくとした胸の痛みがなくなり、さわやかな気持ちだけがあった。思えばこの三ヶ月間、さまざまなことが咲羅の身に起きた。初めての彼氏ができた。初めてのキスもした。彼との仲がもつれたが、円満な解決に持っていくこともできた。それらの生新な出来事が、彼女の未熟な皮膚をはがしたのかもしれない。もしくは傷つくまいとする、たんなる自己防衛なのかもしれない。しかし、いずれにせよ咲羅は今の境地に満足していた。もう、傷ついたり悩んだりするのは嫌だった。